「教育AIが変える21世紀の学び」

しばらく空いてしまいましたが、このブログの記事をどんなテーマで書いていくか考えていました。書評ブログにしようと思いましたが、私の場合、興味のあるテーマが決まっていないので、離散的になってしまうと思われます。ノウハウ的なものが発信できたらとも思いましたが、重い腰を上げた今は全くの素人なので、これから積みあがっていけばいいと思っています。私は勉強が好きなので、生涯いろんなことについて学習を続けることを目標に、学習履歴を書き留めることにします。そのために、特に分野を限定せず、情報収集をし、学んだことを備忘録的に書き留めていきます。

 

 

 COVID-19のパンデミックによって、オンラインで授業を行うことを急ピッチで強いられた日本の教育現場では、連日TVニュースで報じられたことで周知のことと思われますが、現場の対応は非常に苦慮しています。ところが、日本国外では企業によって、AIを活用して教師の負担軽減および生徒の理解力向上を実現されていることおり、非常に興味深く感じました。また、教師を事務的な単純作業から解放させることで、AIに代替できない3C(「Curiosity」、「Critical thinking」、「Creativity」)を育てることにもより注力できるようになるといいます。

 

 AIが一体どのように教育において貢献するんでしょうか。単純作業からの解放については、採点や問題作成、その他事務的な作業は代替え可能であろうと想像できますが、、。最先端の取り組みについて知ってみたく、本書を手に取りました。

 

「 教育AIが変える21世紀の学び」 北大路書房

 

 本書は2部構成で、第1部「AIの時代に生徒は何を学ぶべきか」、第2部「AIがどのように教育を向上させ、変革することができるのか」となっています。今回私が知りたいのは、主に第2部の内容に当たるので、第2部を読んでみました。

 

  教育に当たるAI→AIED:Artificial Intelligence in Education

 

 近年、コンピュータおよびパーソナルコンピュータの登場によって、コンピュータ支援教育は急速に進展し、またAIEDは市場規模としては2024年に60億ドルにもなると予測され、教育へのAIの応用は指数関数的に進んでいるといいます。市場規模としてはそんなに大きくない印象ですね。

 

 では、具体的に本書に書かれている活用事例を見ていきたいと思います。

(1)知的学習支援モデル(ITS:Intelligence Tutoring System)

  個々の生徒の学習理解に応じた学習経路(教材や学習の仕方)をAIが提示してくれる。これは生徒の効果的な理解を助けるために貢献する。言ってしまえば生徒一人ひとりにAIの個別指導が付くようなイメージですかね。

  ISTが扱う題材として、数学・物理のような明確に定義された分野が得意であるが、法的議論など明確に定義できない分野は、生徒に複雑な認知スキルを要するため、不得意であるといいます。AIが生徒の学習を支援することで、最も特徴的なのは、学習者モデルであり、生徒とのやり取り、生徒が理解しているか、生徒の感情状態など、生徒に関する幅広い情報からどのようなサポートを施すかを決められます。また多くの生徒の情報からAIが学習することで、この理解度の生徒にはどのような学習アプローチを適用することが適切かなど、機械学習によって適応性が向上していくといいます。

 一人ひとりの個別指導であることは間違いないのですが、大量のデータに裏付けされていることで、より洗練された画一性というところに収束していくのではと考えることもできます。つまり、個別でありながら、理想とするところは誰にとっても最適とされる洗練された一般解に皆が習うことでは?という解釈。

 

(2)対話型学習支援システム

 学習するトピックスに関する対話を生徒と行って、生徒の理解度を深めさせることができます。新しいことを教えるというより、事前に習ったことについて理解を深めることに特化しています。本書によると、非専門家による個別指導よりも効果的であることが実験から判明しているそうです。

 反復を繰り返しすぎるよりも効率的に学ぶことができそうですね。

 

(3)探索型学習環境

 探索型学習は長い歴史を持つが、生徒が自分自身で知識を能動的に構築していくことは、教師から生徒に明確な説明が与えられず、遠回りをしてしまうことで認知的にオーバーロードになり、よい結果につながらないことが指摘されてきました。ここでAIが自動的に的確な助言やアプローチを提案することで、回り道を省略して学習効果を向上させることが見込まれます。しかし、先験的にどのような行動が生徒の学習に役立つかこと知ることが難しく、学習者モデルを構築することが課題になっているそうです。生徒が必要としている助言を的確に与えることが困難。

これって、生徒の言語能力にも左右されるんじゃないかな。どこが分からないか、言葉で具体的に表現できれば、教師が的確に導くことは可能だと思うが、どこが分からないかわからない状態であったら、教師が人間でも苦慮すると思います。

 

 

(4)自動ライティング評価

 生徒が作成した文章に自動でフィードバックを与えるものです。これはイメージしやすいですね。教師による比較的小規模での利用と、試験機関による大規模な環境でのコストダウンと対外的な妥当性の改善が望まれているそうです。選択式問題であれば簡単ですが、エッセイの採点となると、確かに手間も評価基準もばらつきはあります。こうしたことから、AIED研究で最も資金が投入されている分野になるそう。逆説的ですが、質の高いエッセイを自動的に執筆できるAIなんていうのも、近い将来登場するかもしれないとのこと。

 かなり現実的だと思っています。

  

(5)その他のAIED事例

 最近、著しい成長を見せている教育AIの応用例として、言語学習が挙げられています。中でも、「Babbel」と「Duolingo」というアプリが有名であるそう。Duolingoは、学習理論に基づいて効果的に単語を習得できる学習アプリだそうで、大学の語学クラスと同程度の学びの効果が得られるといいます。

 実はこのDuolingoは、以前行ったマレーシアで、現地のIT専攻の学生が日本語を学ぶために使っているといって紹介してくれたアプリでした。ゲーム形式で基本的な日本語を学ぶことができると言っていましたが、単なるゲームアプリではなかったらしいです。

 

(6)他にできること

・継続的な評価

 学校教育における評価は、ある感覚で行われるテストによって理解度を評価し、点数をつけます。しかし、テストで扱うことができる項目には時間的にも限りがあるため、限定的なものになってしまいます。(テストで出なかったところは理解しているか確認されないまま。学習内容の断片的なスナップショットにしかならない。)これが、テストによって中断されることなく、授業中に理解度を常にAIが把握することで、継続的に評価を行うことができるようになるといいます。また、ひとりの人の生涯にわたって、学習に同行し支援してくれるAI駆動のコンパニオンが作り出されることも予想されます。   

 確かに、学校にいる間の数年間だけにとどまらず、その人をより理解してくれるAIが長期にわたってサポートし続けた方が、学習効率は格段に向上するはずです。しかし、AIが人間を理解しすぎると、少なからずディストピア的思想も現れてくると想像されます。

 

・AIによるティーチングアシスタント

 私が教育AIに興味を持ったきっかけはAIによるティーチングアシスタントであり、これについても本書では述べられていました。著者が言うには、AIEDが教師にとって代わるような未来は予想していないといいます。単純な願いに過ぎないかもしれないが、教師を時間のかかる作業から解放し、その役割が進化し続けて変化する未来が来ると想定している。そもそも教育とは知識を提供すること以上の行いであり、AIは教師が生徒を教え、支えることを支援することが役割であると。生徒にとって何が最善かを決めるのは、最終的には教師であり続けると述べています。

 アシスタントとしてのAIは対話型のAIのようなものかと考えていましたが、それはあくまで表面的な見え方で、複数の支援システムによって裏付けされて初めて効果的なサポートができるんですね。

 

・AIEDの倫理

 生徒の注意を最大化するために、授業中における生徒の顔を常時カメラで監視し、表情から生徒の感情を認識し、その生徒への特別な対応が必要かどうか教師に知らせるような試みも行われているといいます。また、機械学習によってパターンを見つけようと、大量の生徒のやり取りのデータを収集した事例もあるそうです。常時監視される社会で、これらのデータは誰がどのように管理するのか。はたまたどの程度共有して活用していいのか。自明であるがまだ答えのない倫理的な問題は、未解決のまま転がっています。また、倫理を重んじてAIEDの分野でイノベーションを起こさないことによるコストと、倫理問題を完全に解決して、AIEDのイノベーションが研究者たちにもたらす利益のバランスについても考える必要があると著者は述べています。

 この分野に限った話ではありませんが、AIが人間と身近になるにつれて、このような問題はくっきりと見えるようになっていくと思っています。つまり表面化するまでは、具体的な対策はなかなか講じられないでしょう。それでも、子供の教育において、実験的にデータを蓄積することは、大きく反感を買いそうに感じます。子供のための支援ですが、子供を実験に使うのは倫理的にも理解が得られづらいと思います。日本では余計に困難でしょうね。

 

教育へのAIの導入について、私は前向きに考えています。理想論かもしれませんが、本書で述べられていることが実現されたらと思います。